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東京高等裁判所 平成10年(行ケ)76号 判決 1999年4月27日

アメリカ合衆国ニュージャージー州07962-2245、

モーリスタウン、コロンビア・ロード101、ピー・オー・ボックス2245

原告

アライドシグナル・インコーポレーテッド

代表者

ロジャー・エイチ・クリス

訴訟代理人弁護士

大野聖二

那須健人

同弁理士

栗田忠彦

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 伊佐山建志

指定代理人

石井勝徳

船越巧子

田中弘満

小池隆

主文

特許庁が平成9年審判第6422号事件について平成9年10月27日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1  原告の求めた裁判

主文第1項同旨の判決

第2  事案の概要

1  特許庁における手続の経緯

アメリカ合衆国ニューヨーク州法に基づいて設立された法人であるアライド・コーポレーションは、1986年6月12日アメリカ合衆国でした特許出願に基づく優先権を主張して、昭和62年6月12日、名称を「切断抵抗性物品」とする発明について特許出願をしたが(昭和62年特許願第146846号、後に名称を「切断抵抗性物品製造用のヤーン及び切断抵抗性物品」と補正。)、上記会社は、1987(昭和62)年9月30日原告と合併し、原告は同会社の本件出願に関する権利関係一切を承継した。

平成8年12月20日、本件出願につき拒絶査定があったので(拒絶査定謄本は平成9年1月29日に送達)、原告は、平成9年4月28日に審判請求をし、平成9年審判第6422号として審理されたが、同年10月27日、90日の出訴期間が付加された上「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は平成9年11月19日原告に送達された。

2  本願発明の要旨(特許請求の範囲第1項の記載)

少なくとも1GPaの引っ張り強さを有する少なくとも1本の非金属繊維でラッピングされている、アラミド繊維、超高分子量ポリオレフィン繊維、炭素繊維及びガラス繊維並びにそれらの組み合わせより成る群から選択される、少なくとも1GPaの引っ張り強さを有する少なくとも1本の縦の高強力ストランドより成る、切断抵抗性布帛の製造に用いるためのヤーン。

3  審決の理由の要点

(1)  本願発明の要旨

本願発明の要旨は、特許請求の範囲第1項及び同第6項に記載されたとおりのものと認められ、同第1項には前記2のとおり記載されていることが認められる。

(2)  引用例

原査定の拒絶理由に引用された、本件第1国出願前に頒布されたことが明らかな刊行物である、特開昭54-134147号公報(本訴甲第5号証。引用例)には、その特許請求の範囲に、

「(1) 針金コアーおよび外方合成繊維被覆を有する編糸において、前記コアーが可撓性針金の単数または複数のストランドを含み、かつ前記被覆が耐摩耗性を有する合成ポリアミド繊維であることを特徴とする糸。」(第1項)、

「(2) 前記第1項記載の糸において、前記コアーが強さの大なる芳香族ポリアミド繊維の少なくとも1本のストランドを有している糸。」(第2項)、

「(5) 前記第4項記載の糸において、前記被覆の少なくとも内方巻回が強さの大なる芳香族ポリアミド繊維の如き、水分によって影響されない非伸張性の強い合成材料であり、かつ前記被覆の外方巻回が耐摩耗性の大なる合成ポリアミド繊維である糸。」(第5項)

等が記載され、発明の詳細な説明に、

「特に本発明によれば針金コアーおよび外方合成繊維被覆を有する編糸において、前記コアーが可撓性針金の単数または複数のストランドを含み、かつ前記被覆が耐摩耗性を有する合成ポリアミド繊維であることを特徴とする糸が得られる。

前記糸、特にこの糸によって作られた衣料品はいくつかの利点、すなわち切断抵抗が大であり、耐摩耗性がすぐれ、使用中に堅くなったり永久変形が生じたりするおそれがなく、かつ外方巻回をナイロンまたは類似の合成繊維とした時には衣料の外観が良くなり、軽くなり、ざらざらした感触がなくなりかつ着用した場合に快適である等の利点を有している。」(2頁右上欄13行ないし同頁左下欄5行)、

「糸(B)のコアー10は2本の焼なまされたステンレス鋼針金16、18と、1本の強いアラミッド(芳香族ポリアミド)繊維20、なるべくは米国Du Pont社から発売されているケブラー29の如き繊維とより成っている。」(2頁右下欄5行ないし9行)、

「コアー10内の合成繊維のストランド20は比較的伸長性の大きな強い合成繊維であり、その引張強さが28,000キログラム/平方センチメートル(400,000ポンド/平方インチ)以上、破断伸び率がほぼ4%以下のもの、たとえば多繊条芳香族ポリアミド繊維、なるべくは強さの大きな多繊条ケブラーが使用される。前記ストランドの寸法すなわち“繊度”は500デニール(500D)乃至1100デニール(1100D)、なるべくは1000デニール(1000D)とされる。1デニールは長さ450メートル当りの重量が50ミリグラムであることを表わす。

糸(B)のコアー10に対する内方巻回12も強さの大なる合成繊維、なるべくは400デニール(400D)の繊度を有するケブラー29アラミッドの如き多繊条芳香族ポリアミド繊維によって形成される。」(3頁左上欄5行ないし同頁右上欄1行)、

「しかしながら用途によってはステンレス鋼コアーのストランドを1本にし、または特に外方巻回を減らして、直径がほぼ0.1524ミリメートル(0.006インチ)のステンレス鋼コアーのストランドを2本となすことができる。」(3頁右下欄9ないし13行)

等が記載されていることが認められる。

(3)  審決がした本願発明と引用発明との対比

本願発明と引用例に記載された発明(引用発明)とを対比検討する。

まず、繊維でラッピングされたヤーンの芯部材について検討する。

本件出願の特許請求の範囲第1項には、「アラミド繊維、超高分子量ポリオレフィン繊維、炭素繊維及びガラス繊維並びにそれらの組み合わせより成る群から選択される、少なくとも1GPaの引っ張り強さを有する少なくとも1本の縦の高強力ストランド」と記載されているから、ヤーンの芯部材は、上記のように特定される少なくとも1本の高強力ストランド(以下、単に「高強力ストランド」という。)を有するものであればよいものと解される。

そして、発明の詳細な説明には、本願発明の実施例について、

「ヤーンは、ステンレスワイヤーから成る1本の縦のストランド及び超高分子量ポリエチレン繊維から成る平行ストランドをラッピングすることによって作った」旨(明細書8頁4行ないし11行)、

「ヤーンAについては、ワイヤーと高強力ポリエチレンの上記平行ストランドをラッピングするのに上記ポリエステル繊維の2層ラップを用いた」旨(同8頁17行ないし20行)、

「ヤーンBについて、上記超高分子量ポリエチレン繊維の1層を上記ストランドにラッピングされる最内層として用いた。外層は上記ポリエステル繊維である」旨(9頁1行ないし4行)

が記載され、しかも、本願明細書には、ヤーンの芯部材として、金属から成るワイヤーなどが除かれる旨のことは記載されていない。

そうであれば、本願発明のヤーンには、芯部材が、高強力ストランドとワイヤーとから成るものも含まれるものと解するのが相当である。

また、前項(2)において摘示したように、引用例には、コアー(芯部材)が可撓性針金の単数又は複数のストランドと合成繊維のストランドから成るものであること、合成繊維のストランドは、比較的伸長性の大きな強い合成繊維であり、その引張強さが28,000キログラム/平方センチメートル(400,000ポンド/平方インチ)以上、例えば多繊条芳香族ポリアミド繊維、なるべくは強さの大きな多繊条ケブラーが使用されることが記載されている。ここで、芳香族ポリアミド繊維(アラミド繊維)の引張強さが28,000キログラム/平方センチメートル以上とは、換算すると約2.8GPa以上ということである。

そうすると、本願発明と引用発明とは、ヤーンを構成する芯部材において実質的に相違するところはない。

(4)  審決がした本願発明と引用発明との間の相違点の認定

そこで、以上のことを踏まえて、再び本願発明と引用発明との対比検討に戻ると、両者は、「少なくとも1本の非金属繊維でラッピングされている、アラミド繊維、超高分子量ポリオレフィン繊維、炭素繊維及びガラス繊維並びにそれらの組み合わせより成る群から選択される、少なくとも1GPaの引っ張り強さを有する少なくとも1本の縦の高強力ストランドより成る、切断抵抗性布帛の製造に用いるためのヤーン」の点で一致し、「ラッピング用の非金属繊維が、本願発明は、少なくとも1GPaの引っ張り強さを有するものであるのに対して、引用発明は、引っ張り強さについて言及されていない」点で相違する。

(5)  相違点に関する審決の判断

上記相違点について検討する。

引用例に、被覆用繊維は、強さの大なる合成繊維、なるべくは400デニールの繊度を有するアラミッドのような多繊条芳香族ポリアミドが用いられる(特許請求の範囲第5項、3頁左上欄17行ないし同頁右上欄1行など参照。)旨が記載されているから、引用例には、被覆(ラッピング)用繊維としては引っ張り強度の大きい繊維を用いることが開示されている、といえる。

そうすると、非金属繊維自体として、1GPa以上の引っ張り強度を有するものは周知であり、ラッピング用繊維の引っ張り強度をどの程度のものとするかは、実施に際して当業者が適宜に採択し得ることであるから、ラッピング用の繊維に、少なくとも1GPaの引っ張り強さを有する非金属繊維を採用することは当業者が容易に想到し得ることである。

そして、本願発明の効果は、引用発明から予測される程度のものであるから、格別のものとはいえない。

(6)  審決のむすび

以上のとおりであるから、本願発明は、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第3  原告主張の審決取消事由

審決認定の引用例の記載は認めるが、審決は、本願発明の構成の認定を誤った結果本願発明と引用発明との間の一致点の認定を誤り、また、その間の相違点に関する判断を誤ったものであるから、違法であり、取り消されるべきである。

1  取消事由1(一致点の認定の誤り)

審決は、「本願明細書には、ヤーンの芯部材として、金属から成るワイヤーなどが除かれる旨のことは記載されていない。そうであれば、本願発明のヤーンは、芯部材が、高強力ストランドとワイヤーとから成るものも含まれるものと解するのが相当である」とし、「本願発明と引用発明とは、ヤーンを構成する芯部材において実質的に相違するところはない」として、両者は「少なくとも1本の非金属繊維でラッピングされている、アラミド繊維、超高分子量ポリオレフィン繊維、炭素繊維及びガラス繊維並びにそれらの組み合わせより成る群から選択される、……少なくとも1本の縦の高強力ストランドより成る、……ヤーン」の点で一致すると認定した。

しかしながら、本願発明の特許請求の範囲の記載から明らかなように、本願発明のストランドは、「アラミド繊維、超高分子量ポリオレフィン繊維、炭素繊維及びガラス繊維並びにそれらの組み合わせより成る群から選択される」ものであり、必須構成要件といて、金属繊維は含まないことが明確に規定されている。

特許請求の範囲の補正があった際同時に提出された平成8年1月11日付け意見書にも、「本発明はヤーンが非金属繊維でラッピングされた非金属繊維のストランドより成る態様に限定された。このように、金属繊維ストランド及び金属繊維のラッピング材が存在しなくても、物品に高度の切断抵抗性を付与することができることは驚くべきことである。」(甲第4号証2頁16ないし19行)と明確に記載されている。

このように、本願発明では、ヤーンの芯部材の選択範囲として、アラミド繊維、超高分子量ポリオレフィン繊維、炭素繊維及びガラス繊維並びにそれらの組合せから成る群が採択され、金属繊維は必須構成要件とならないのに対して、引用発明のヤーンでは、芳香族ポリアミド繊維を芯部材とするストランドを使用するか否かに関係なく、可撓性針金を芯部材とするストランドを必須構成要件とするものであり、この点において、両者は完全に異なっており、両発明の同一性に関する審決の前記認定は誤りである。

2  取消事由2(相違点の判断の誤り)

(1)  審決は、本願発明と引用発明との間の相違点の判断の根拠として、「引用例に、被覆用繊維は、強さの大なる合成繊維、なるべく400デニールの繊度を有するアラミッドのような多繊条芳香族ポリアミドが用いられる旨が記載されている」ことを挙げている。

しかし、引用例のこの記載は、引用例でいう被覆のうち内方巻回を指すものである。この点、引用例では、内方巻回と外方巻回の効果につき、以下のとおり説明されている。

「コアーを囲繞するケブラー繊維12は切断抵抗を増加せしめ、かつナイロン繊維よりなる外方巻回14は糸になめらかな感触を与えると共にケブラー繊維巻回12の摩擦効果に打勝つ働らきを有することが認められている。」(甲第5号証2頁右下欄13行ないし17行)

かかる記載と引用例5頁の図1(本判決別紙引用例図面)から明らかなように、「ケブラー繊維12」とは内方巻回を指し、その効果はヤーン自体の切断抵抗を増加させることにある。これに対し外方巻回14は柔軟性、快適性及び耐摩耗性を有する働きがあるとされている。

一般に、切断抵抗性を備えた糸において被覆が施されるのは、ストランドの部分は、切断抵抗性の強化を図るために、それに使用される金属繊維等では、柔軟性、耐摩耗性、あるいは、接触における不快感の除去等の目的に適した材料を使用することができないために、被覆により、これらの目的を達成するものである。とすれば、「被覆」の点で引用発明と本願発明を比較する対象は、外部に露出する最外側の材料と考えるべきである。したがって、引用発明では、外方巻回の被覆がこれに該当すると考えられる。

引用発明においては、外方巻回に関しては、単に「耐摩耗性を有する合成ポリアミド繊」としか記載されておらず、強度に関しては、一切記載がなく、ただ繊度につき「200乃至600デニールの外方巻回を使用すれば満足すべき効果が得られる」と言及するにとどまっている(甲第5号証3頁左下欄2行ないし4行)。

したがって、引用例においては、ラッピングする繊維に関しては、引っ張り強度が強い繊維を用いるという技術的思想は開示されていない。

(2)  本願発明のラッピング用繊維の強度限定は、これにより、構成されるヤーンをジャケットとして使用し、これにより包囲した低切断抵抗性の部材と組み合わせることにより、高い強度が得られる目的から限定されたものである。これに対して、引用発明は、機械編みに適する糸及び糸を使用した安全衣料に関するものであり、糸で作られた衣料品それ自体の切断抵抗性を高めることを目的とするものであり、これを低切断抵抗性の部材と組み合わせた場合の切断抵抗性に関しては、全く示唆すらなされていない。

結局、引用例には、本願発明の課題が一切示唆されていないのであり、引用例の記載から、ヤーンをジャケットとして使用して、低抵抗性部材と組み合わせて、高度の切断抵抗性を得るためのラッピング用繊維の強度限定をした本願発明の構成につき、容易想到性を認めた審決の判断は誤りである。

第4  審決取消事由に対する被告の反論

1  取消事由1について

本願発明の特許請求の範囲第1項の記載は、本願発明のストランドが複数本あることを排除していない。つまり、本願発明においては、ストランドが複数本ある場合も含まれ、その場合、少なくとも1本のストランドはアラミド繊維等から選択されるので金属繊維ではないものの、他のストランドについては、どのような材質のものであってもよく、金属繊維であっても構わない。すなわち、本願発明において、ヤーンのストーランドは、複数本から成り、そのうち、少なくとも1本のストランドは金属繊維ではないものの、他のストランドが金属繊維であるストランドを排除していないのである。

一方、引用例には、コアー(芯部材)がステンレス鋼から成る可撓性針金のストランドと合成樹脂のストランドから成るものであること、合成樹脂のストランドは、比較的伸長性の大きな強い合成樹脂であり、例えば多繊条芳香族ポリアミド繊維、なるべくは強さの大きな多繊条ケブラーが使用されることが記載されている。ここで、芳香族ポリアミド繊維(アラミド繊維)の引張強さは、換算すると約2.18GPa以上である。

そうすると、引用例には、本願発明のストランドに相当するコアーが開示されているのであり、審決には原告主張の一致点の誤認はない。

2  取消理由2について

本願発明の特許請求の範囲第1項の記載によれば、本願発明は、縦の高強力ストランドが少なくとも1本の非金属繊維でラッピングされていればよく、ラッピングされる非金属繊維は、原告の主張するように、外部に露出する最外側の被覆に限定されるわけではない。

一方、引用例には、コアー10に対する被覆用繊維(内方巻回)は、強さの大なる合成繊維、なるべくはケブラー29アラミッドのような多繊条芳香族ポリアミド繊維が用いられることが記載されている。

したがって、引用例には被覆(ラッピング)用繊維としては引っ張り強度の大きい繊維を用いることが開示されているといえるとした審決の認定に誤りはない。

そして、非金属繊維自体として1GPa以上の引っ張り強度を有するものは周知であり、ラッピング用繊維の引っ張り強度をどの程度のものとするかは、実施に際して当業者が適宜に採択し得ることであるから、「ラッピング用の繊維に、少なくとも1GPaの引っ張り強さを有する非金属繊維を採用することは当業者が容易に想到し得ることである。」とした審決の判断に誤りはない。

第5  当裁判所の判断

取消事由1について判断する。

1  本願発明の要旨(特許請求の範囲の第1項)を分説すると、

(1)  少なくとも1GPaの引っ張り強さを有する少なくとも1本の非金属繊維でラッピングされている、

(2)  アラミド繊維、超高分子量ポリオレフィン繊維、炭素繊維及びガラス繊維並びにそれらの組み合わせより成る群から選択される、

(3)  少なくとも1GPaの引っ張り強さを有する

(4)  少なくとも1本の縦の高強力ストランドより成る、

(5)  切断抵抗性布帛の製造に用いるためのヤーン。

となるが、審決は、(2)の要件につき、「ヤーンの芯部材は、上記のように特定される少なくとも1本の高強力ストランドを有するものであればよいものと解される」と判断し、本願明細書の発明の詳細な説明に、ステンレスワイヤーから成るストランドをラッピングする実施例などが記載されていること、さらには、本願明細書には、ヤーンの芯部材として金属から成るワイヤーなどが除外される旨の記載もないことを根拠にして、本願発明のヤーンには、芯部材が高強力ストランドとワイヤーとから成るものも含まれると解するのを相当とした。

しかしながら、上記のような本願発明の構成要件の記載によれば、上記(4)で規定される「少なくとも1本の縦の高強力ストランド」は、(2)の要件で規定される群から選択されるものと限定的に解すべきであり、したがって(2)で規定されていない金属繊維ないし金属から成るワイヤーなどは、芯部材としてここに含まれないものと理解すべきである。

2  確かに、甲第3号証の1、2(本件出願の公開特許公報及び平成6年6月13日付け手続補正書)によれば、審決認定のとおり、本願発明の実施例に関し本願明細書の発明の詳細な説明に、「ヤーンは、ステンレスワイヤーから成る1本の縦のストランド及び超高分子量ポリエチレン繊維から成る平行ストランドをラッピングすることによって作った」旨(明細書8頁4行ないし11行)、「ヤーンAについては、ワイヤーと高強力ポリエチレンの上記平行ストランドをラッピングするのに上記ポリエステル繊維の2層ラップを用いた」旨(同8頁17行ないし20行)、及び、「ヤーンBについて、上記超高分子量ポリエチレン繊維の1層を上記ストランドにラッピングされる最内層として用いた。外層は上記ポリエステル繊維である」旨(同9頁1行ないし4行)の記載があること、さらに、本願明細書には、ヤーンの芯部材として、金属からなるワイヤーなどが除かれる旨のことは記載されていないことが認められる。

しかしながら、甲第3号証の3及び第4号証によれば、本件出願につき平成8年1月11日付けで提出された手続補正書(特許請求の範囲の補正を含む補正に係るもの)と同日付けで提出された原告の意見書には、「本発明はヤーンが非金属繊維でラッピングされた非金属繊維のストランドより成る態様に限定された。このように、金属繊維ストランド及び金属繊維のラッピング材が存在しなくても、物品に高度の切断抵抗性を付与することができることは驚くべきことである。」(2頁16行ないし19行)と記載されていることが認められ、また、上記手続補正書において、本願明細書の発明の詳細な説明の「発明の概要」の項のうちの記載、すなわち、「ジャケット中の繊維用に用いられるストランドはアラミド、超高分子量ポリオレフィン、炭素、金属、繊維ガラス及びそれらの組合せより成る群から選択することができる。縦のストランド(又は複数のストランド)にラッピングするのに用いられる繊維はアラミド繊維、超高分子量ポリオレフィン繊維、炭素繊維、金属繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、常分子量(「高分子量」の誤記と認められる。)ポリオレフィン繊維、繊維ガラス、ポリアクリル系繊維及びそれらの組合せより成る群から選択することができる。繊維ラッピングが1GPa以上の高強力繊維である場合、好ましい繊維ラッピングはアラミド繊維、超高分子量ポリオレフィン繊維、炭素繊維、金属繊維、繊維ガラス及びそれらの組合せより成る群から選ばれる。」(本願明細書6頁5行ないし末行)の記載中の「金属、」及び「金属繊維、」の語を削除したことが認められる。

これらによれば、本願明細書の発明の詳細な説明の記載においても、上記補正後においては、本願発明の要旨の(4)の強力ストランドは、(2)で規定する以外の金属繊維ないし金属から成るワイヤーなどを含まないものであることが明確にされたものということができる(なお、審決認定の上記発明の詳細な説明の記載によれば、依然として金属繊維を含むものが実施例の記載が残っているが、前示のように特許請求の範囲の記載は前示のように解釈すべきであること、及び、発明の詳細な説明の「発明の概要」における上記補正後の記載からすれば、金属繊維を含むものが実施例の記載が残っていることをもって、本願発明の要旨として前記のように解すべきことの障害となるものではない。)。

3  したがって、「本願発明のヤーンには、芯部材が、高強力ストランドとワイヤーとから成るものも含まれるものと解するのが相当である。」とした審決の認定、判断は誤りであり、本願発明と引用発明とは、ヤーンを構成する芯部材において実質的に相違することはないとした審決の認定、判断も誤りというべきである。そして、この誤りは、本願発明は引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとした審決の結論に影響を及ぼすものであることが明らかであるから、原告主張のその余の審決取消事由について判断するまでもなく、審決は取消しを免れない。

第6  結論

よって、原告の請求は理由があり、主文のとおり判決する。

(平成11年4月13日口頭弁論終結)

(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 市川正巳)

「引用例図面」

<省略>

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